「さてさて、ボール競技じゃあるまいしと笑われそうなことを言いますが、ゴーグルは手になじみましたかね?」
「え、えーっと……」
「てなわけで質問しますよん。普段メールや音声通信、まあその他いろいろ使い道がございますふつうのコンピュータと比べてどうですかね?」
「携帯端末、ってところだと思うんだけど、こういうゴーグルみたいなのは見慣れないわね……」
「まー、SiNEが一般の人とは関わりなくなってから、だいぶ経ちますしね。これが今現在一般的な携帯端末やらと違うのは、ディープダイブに特化してるとこでしょうな。まずは脳波認証してステータスかStatus Viewerってのがあると思いますんで、それを開いてください」
「……unknownっていうのと、あなたの名前が登録されてます。unknownは、……ゴーグルスペック、ブレインアクセサリ、コマンド一覧……?」
「そうそう。見えてるみたいでほっとしましたよ。ここでは自分の実力を測る指標であるダイバーズレベルと経験値、潜るときの体力ともいえるBP容量、その他、攻撃力や防壁強度や入力速度が確認できるのですよん。ゴーグルスペックは装備しているパーツが、ブレインアクセサリには現在ブレインポケットで動かしてるプログラムが、コマンド一覧では今までに取得したコマンドが確認できるのですが、まー、それぞれの詳しい話は追々してきましょー。OK?」
「あ、はい」
「ご協力どうも。さて、ではまず、アクティブメモリの中身を見てもらいましょうか。メモリツールかMemory Managerってのがあると思うから、それを開いてくれるかな」
「メモリーツール…… の、アクティブメモリはこれで…… あ、何か入ってる。……BPクリーナー?」
「そ。1-bitダイビングのときに使うんだけど、どういうファイルかは後から説明しますよん。さてさて、ゴーグルにはアクティブメモリとスタティックメモリと、二つのファイル保存領域があるわけですが、このアクティブメモリは通信時に、メモリ領域のフォトン配列に関連づけられたキーパケットをQUEEN SYSTEMに提出します。……っていってもなんのことか分からないよね?」
「すみません、さっぱり分からなかったんだけど……」
「あっはっは。これはさっき言った、Queen's Landに入るための手続きのひとつなのですよ。潜るときに意識することじゃないので、分からなくて大丈夫ですよん。まあ通信するときに使うんだなぁという程度の認識をしていただければ幸いです。んで、全部のデータを通信のときやりとりするのは効率の悪さなんかもありますし、いらないのはスタティックメモリに入れちゃうのが通例ですかな。こっちは通信するときに関わってきませんので」
「なんとなく、分かりました」
「ちなみに、1-bitダイビングするダイバーのスキルはダイバーズレベルによって判断するのがこの業界の通例なんですが、ああ、ダイバーズレベルについては後日お話ししますよん。これが一定レベルに達していないと容量の大きなアクティブメモリは売ってもらえません。他の演算ユニットや強化ボードもそう。唯一例外が、通信に使わず、ダイバーの力量と関係のないスタティックメモリで、これはどんなレベルでも最初から容量の大きなものを売ってくれますよん」
「スタティックメモリは、ダイビングのときは関係ないのね」
「あ、例外もありますよん? それも追々話していきましょうか。さて、アクティブメモリなんかはメールやら音声通信やらをやるときにも使いますが、1-bitダイビングをやるときにはこれ以外にもメモリ領域を使うんですよん。想像つきますかな?」
「……ブレインポケット?」
「おっ、よくご存じですね。1-bitダイビングは俺たちの脳内にあるブレインポケットも使うのですよん」
「だから、危険だって言われてるのよね」
「そ。HONETに違反したらQUEENの直接制裁で殺されちゃうこともありますし。ダイビング中はブレインポケットの状態をよくよく見ておくことが大事ですよん。力量以上のことをやろうとすると、オーバーフローして痛い目見ますし」
「えっと、ごめん。HONETって?」
「ああ、ごめんごめん。まだちゃんと説明してなかったね。Ω-NETの利用に関する法律なんだけど、これはゴーグルの装備の説明が終わってからお話ししますよん。さて、さっきの説明でアクティブメモリとスタティックメモリの違いはなんとなく分かったかな?」
「なんとなくなら…… 初心者には用量の大きなメモリをダイビングで使うことができないから、補助的にスタティックメモリも使うというくらいは」
「別にレベルが上がってもスタティックメモリは使いますけどねん。ほら、日常でも荷物いっぱい抱え込んで歩いてる人を見て、スマートじゃないなあなんて思ったりしない? まあ、あんな感じですよ。もち、潜水時間やら拾ってくるファイルの容量のことがありますんで、それに見合う容量を持ってるアクティブメモリは必要になりますけどね」
「分かるような、分からないような」
「まあこのあたりは個人の趣味なんでいいとして、ダイビングの前にはこのアクティブメモリの中身を見ておきましょ。今入ってるBPクリーナーっていうのは、汚染されたブレインポケットを修復する使い捨てのプログラムです。ある程度持っていたほうがいいけど、潜った先に落ちてることあるし、もっと有用なファイルが落ちてることもありますんで、空きスペースは作っておくべきだと思いますよん。まあ欲しければ、その場で今持ってるファイルを捨てるなりなんなりして空き容量作っちゃうって方法もあるわけですが」
「そういえば、ブレインポケットもメモリ領域として使うのよね」
「あー…… ブレインポケットは処理に使ったりするから結構特殊です。アクティブメモリは意識的に使わないとファイルを保存したりだとかできないけど、ブレインポケットは防衛機能なんかが送ってきた無意味なゴミデータにメモリ領域奪われちゃいますし。変なプログラムにいじられて移動ごとにメモリ領域が奪われてくとか、行動しようとしてもうまく動けなくなっちゃうとか、ありますねえ。逆にわざとここにプログラムを入れて、自分の能力をUPさせたりってことも可能ですよん。まー、その分メモリ領域使うわけですから、体力は落ちるわけですけどね」
「はあ」
「まあ、何回か潜れば分かるようになりますよん。さてさて、ブレインポケットは大脳の確認未使用領域を使ってるわけですが、コンピュータの利用歴が長いほど用量が増えてく傾向があります。容量を増やすプログラムも存在しますね。一回ポッキリしか使えないインスタントなプログラムですが」
「……それって、体に害はないの?」
「まあ、少しずつしか増えていきませんので、一般的にはほとんど害はないと思われてます。医者でもないのでこのあたりのことは俺もよく知らないのですよね。ごめんね」
「いえ……」
「あ、ちなみに無意味なゴミデータは通信終了したら一掃されますよん。あとは、キーパケットを交換し直しても同様のことが起きますが、ここらへんはまた後日にでも。……おや? ウェイターさんがいらしたようですね」
「あ……」
「まあ切りもいいことですし、ちょっと休憩しちゃいましょー。俺のは
「
「え? あっはっは。どうも食べる時間がズレちゃってましてね。ご飯食べるような腹具合ではないのですよ。まあまあ、俺にはかまわずどーぞ」
「はあ (た、食べづらい……)」